判断能力が衰えても財産所有者の目的通りに管理・処分ができる
アパート経営を行っているAさんは日頃から「自分の判断能力が衰えたら、財産が散逸してしまうのでは」と心配していました。
そこで何か手は打てないかと考え始め、たどり着いたのが“民事信託”という制度だったのです。
民事信託とは、財産を持っている方(Aさん)が信頼できる家族に財産を託し、目的に従って管理・処分してもらう制度です。
Aさんは、「代々受け継がれてきたAさん一家の不動産を将来にわたって引き継いでいく」ことを目的として、息子さんに財産の管理・処分をするようにお願いしました。
ただし、財産から生じる利益などは、引き続きAさんがもらい、隠居後の生活費に充てることにしています。
まだ若い息子さんに財産を託してしまうと、「息子さんが慢心して、財産を食い尽くしてしまうのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、民事信託はその危険性に配慮しています。
息子さんはAさんが定めた目的に従って、財産を管理・処分する義務が課せられます。
すなわち、Aさんが定めた「代々受け継がれてきたAさん一家の不動産を、将来にわたって引き継いでいく」という目的から外れた財産の使い方を、息子さんはできないことになっているのです。
民事信託を活用することは、息子さんに家業を継いでもらうための事前準備にもなり、アパートの家賃収益などの利益を引き続きもらうAさんにとっては一石二鳥どころか三鳥、四鳥のうまい話となります。
息子さんは財産が奪われるのを防ぐことができる
今度は視点を移して、息子さんの立場に立って民事信託を見てみましょう。
たとえば、Aさんの財産を狙う者が現れたらどうでしょうか。
判断能力が衰えたAさんを尻目にあれやこれやと策略をめぐらせているかもしれません。
ただし、そんなことになっても心配ありません。
財産はすでに息子さんの手の中にあるためです。
このように民事信託には「争族問題を予防できる」というメリットもあるのです。
不動産所有者は民事信託を活用すべき!
相続で最も相談が多いのは不動産に関する問題です。
本来、高齢になったAさんが病で倒れ、判断能力が急に衰えてしまった場合、アパートを処分してAさんの治療費を捻出することが難しくなります。
家族とはいえ、息子さんがAさんの財産を勝手に処分することは許されないからです。
でも民事信託をしていれば、アパートを管理・処分する権限は息子さんにあり、目的にそう範囲でアパートの処分を検討できるのです。
民事信託は相続税対策にはつながりづらい
ここまでメリットについて述べてきましたが、民事信託のデメリットはあるのでしょうか?
1番大きいデメリットは、特に節税効果がなく、相続「税」対策にはなりづらい点です。
また、制度が少し複雑で、多くの関係者を巻き込むことも頭に入れておかなければいけません。
相続問題は事前に関係者で話し合っていれば、防げるトラブルが多くあります。相続トラブルの予防と考え、制度の申請が多少複雑だったとしても民事信託を利用してみてはいかがでしょうか。