相続は、被相続人の死亡によって開始します。孤独死などで死亡日がはっきりしない場合や、失踪宣告で死亡とみなされた場合には、民法等に従って相続開始の日の判定を行います。
今回は、相続開始の日や相続税申告の期限がどのように決まるかを解説します。
相続開始の時の判断
相続税の納税義務は、相続、遣贈等による財産の取得時に成立し、取得した個人が相続税の納税義務者となります(相続時精算課税の適用を受ける財産を取得した個人も相続税の納税義務者となります)。
「財産の取得時」はイコール「相続開始の時」です。そして、「相続開始の時」の判断は民法882条「相続は、死亡によって開始する」の規定によるとされます。
相続開始の日を判断する「死亡」には、次のように「自然的死亡」の場合と「法律上の死亡」の場合があります。
(1)自然的死亡
医学的な死亡のことで、一般には、死亡した者の戸籍で相続開始の日を確認します。
しかし、戸籍上の記載にて、死亡等の推定に幅がある場合は、表1のようにその幅の終点が相続開始の日として判断されます。
(2)法律上の死亡
①擬制的死亡(失踪宣告)生死不明の不在者は、失踪宣告から一定期間が経過した際に死亡したものとみなされます。その死亡とみなされる時は、普通失踪と特別失踪でそれぞれ表2のとおりで、この時が相続開始の日となります。
②認定死亡(死亡報告)
水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合には、死体が確認できない場合でも「その取調をした官庁又は公署」の報告により、戸籍上の死亡が記載されます(戸籍法89条)。相続開始の日はこの記載に従って判定されます。
■表1:死亡日の記載例別の「相続開始の日」の判定
区分 | 死亡日の記載例 | 相続開始日等の判定 |
推定時間に幅がある場合 | 午前8時から午後10時 | 最後の推定日(10日) |
推定日に幅がある場合 | 12月1日から10日の間 | 最後の推定時刻(午後10時) |
推定月までしか知り得ない場合 | 11月 | 推定月の末日(11月30日) |
推定月に幅がある場合 | 令和4年1月から6月の間 | 最後の推定月の末日(6月30日) |
推定年までしか知り得ない場合 | 令和3年 | 推定年の末日(令和3年12月31日) |
推定年に幅がある場 | 令和2年から令和3年の間 | 最後の推定年の末日(令和3年12月31日) |
※相続開始日(たとえば年末か翌年1月1日か)によって適用される相続税法等が異なりますので、ご注意ください。
■表2:普通失踪と特別失踪における死亡とみなされる時
区分 | 宣告できる場合(民法30) | 死亡とみなされる時(民法31) |
普通失踪 | 生死が7年間明らかでない時 | 生死不明の期間が7年を満了した時 |
特別失踪 | 震災等による死亡の原因となる危難に遭遇した者の生死が、 危難が去った後1年間明らかでない時 |
その危難が去った時 |
相続税の申告期限
相続税の申告期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内」とされています。死亡日(相続開始の日)ではなく、相続開始があったことを知った日です。例えば、相続の開始があったことを知った
日が令和4年7月2日であれば、申告期限は令和5年5月2日となります。なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限となります。
相続人ごとに申告期限が異なることも
同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者で、相続税の申告をしなければならい者が2人以上いる場合は、一般的には共同して相続税の申告書を提出することになります。
しかし、死亡時に共同相続人全員がその場にいないときは、不在の相続人は、相続の開始があったことを知った日が翌日以降になり得ます。そうすると、相続人の間で相続税の申告期限が異なることになります。
もっとも、実務では相続税の申告書は連名で申告する様式が用意されていることから、死亡の日を基準に申告している事例が多いのが実状です。複数の相続人がいる場合は最も早い申告期限に間に合うように手続を進めましょう。
相続放棄の期限と起算日
相続税申告期限と同様に、「相続開始の日」の判断を要する手続きとして、「相続放棄」があります。
相続放棄ができる期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月とされています。自分が相続人である等、通常の場合、相続放棄の期限の起算点は「被相続人の死亡を知った時」となります。一方、そもそも自分が相続権を持っていることを認識していない場合もあり得ます。この場合、「自分が相続権を有することを認識した時」が、相続放棄の期限の起算点となります。また、前順位者が相続放棄をした結果、自分が相続人になるという場合もあります。この場合、相続放棄の期限の起算点は「前順位者の相続放棄を知った時」ということになります。
相続税申告や相続放棄などの手続きは「期限」が大事になります。いずれも期限についてしっかり認識し、余裕をもって手続きを進めると良いでしょう。