高齢化が進んでいることもあり、一般的には、相続人は成人の方であることが多いです。しかし、被相続人が若くして亡くなった場合や、被相続人が孫との養子縁組をしていた場合、被相続人の子が被相続人より先に亡くなっていて孫が代襲相続をする場合等には、未成年者が相続人になることもあります。
身内の方が亡くなられた場合、各種相続手続きを進めるにあたり、遺産分割協議書の提示を求められることが多いです。「遺産分割協議書」とは全ての相続人が参加した遺産分割協議において合意にいたった内容を書面に取りまとめた文書のことで、『不動産の相続登記』や『預貯金・株式の名義変更の手続き』を行う際などに必要になるものです。ちなみに、1度合意した遺産分割協議は原則として全員の合意なく内容変更はできません。つまり、遺産分割協議書は、単に相続手続きのためだけではなく、後になって、「やっぱりこの財産の分配じゃ納得いかない」などといった蒸し返しのトラブルを回避するためにも作成することが推奨されています。
では、この「遺産分割協議書」を作成するにあたり、相続人の中に未成年者がいる場合の対応はどうなるのでしょうか?
例えば父親、母親、未成年の子供2人の家族で見てみましょう。父親が住宅ローンを組んでマンションを購入しており、父親が亡くなったとします。そのマンションは、法定相続分でいけば、母親が2分の1で、子供が4分の1ずつとなります。しかし、実際はマンションの管理や税金の支払いなどは母親が行うので、通常は、遺産分割協議を行って、母親の単独名義にするケースがほとんどだと思います。ここで、「未成年者が遺産分割協議を行うことができるか」という問題があります。未成年といっても、しっかり分別のつく高校生も未成年ですし、生まれたての赤ちゃんも未成年者です。
法律では、一律未成年者がいる場合には、家庭裁判所に「特別代理人」という人を裁判所に選任してもらい、その人が未成年者の代わりに遺産分割協議を行う、という決まりになっています。 なぜ、こんなことをする必要があるのでしょう。未成年者の場合、法律行為は親権者である母親が代わりに行います。しかし、今回の遺産分割協議の場合、母親が未成年者に代わって話し合いといっても、実質は母親ひとりになってしまいます。母親は自分が好きなように決定することができてしまいます。そうすると、母親と子供たちで利害の対立が生じます。これを「利益が相反する」といいます。 これでは、正しい遺産分割協議を行うことはできないので、公正な「特別代理人」が変わりに行うことになるのです。
この特別代理人は裁判所が選任することになります。選任の申立をする際、候補者を挙げることができますので、親族や弁護士、司法書士を候補者として挙げることが可能です。通常は申立後2週間から1か月程度で特別代理人は選任されますが、その際、家庭裁判所は、遺産分割協議書案が未成年者にとって不利な遺産分割の内容になっていないかどうかを特に重視します。したがって、例えば未成年者の相続分が法定相続分よりも少ない場合、特別代理人の選任は基本的には認められないでしょう。 しかし、実際問題、相続人である親が、同じく相続人である未成年の子の養育費や生活費を管理するため、子の相続分の遺産を親が相続した方が良いケースもあります。このような場合、未成年者にとって不利な遺産分割の内容になっていることに合理的な理由があると認められれば、特別代理人の選任を認めてもらえる可能性があります。そのため、申立書や遺産分割協議書案に、合理的な理由をあらかじめ明記しておくことをおすすめします。
尚、相続人に未成年者がいる場合、「未成年者が成年になるまで待ち、その後に遺産分割協議を行えば良い」とお考えになる方もいるでしょう。確かにそのような方法も可能ではあります。しかし、遺産分割協議が成立するまでは遺産を処分することができないため、他の相続人は早く遺産分割協議を進めたいと思われることでしょう。また、相続税の申告が必要になる場合、申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月であるため、未成年者が成年になるのを待っている間にこの期限を過ぎてしまうときは、一旦未分割のまま申告して、後に遺産分割協議が成立してから更正の請求を行う(修正申告する)必要があります。 このような懸念事項もあり、一般的には、相続人に未成年者がいる場合は、未成年者が成年になるまで待つのではなく、法定代理人を関与させて遺産分割協議を進めるケースが多いようです。
相続人に未成年者がいると、手続きとしては余計にひと手間かかり、「特別代理人」の選任が必要となるということを覚えておくとよいでしょう。